政府提唱の「クラウド・バイ・デフォルト原則」とは?
2018年6月、政府はデジタル・ガバメントに向けた標準ガイドラインを発表し、その附属資料にて「クラウド・バイ・デフォルト原則」を提示しました。

このような形で、政府がデジタル・ガバメントに向けたクラウド活用の方針を発表したのは、当時としては世界でも先進的な取り組みであり、政府関係のシステムに携わっていない民間企業であっても、その考え方や取り組みのステップ等は大いに参考となる内容でした。

官民いずれにとっても、システムのクラウド移行は非常に重要な施策です。 本記事では、クラウド・バイ・デフォルト原則の考え方や策定背景、メリットなどを解説した上で、企業のDXに活かせるクラウド活用のポイントをご紹介します。

目次

クラウド・バイ・デフォルト原則とは?

クラウド・バイ・デフォルト原則とは?

クラウド・バイ・デフォルト原則とは、「クラウドサービスの利用を第一候補として、その検討を行う」ことだと、2018年6月7日発表の資料「政府情報システムにおけるクラウドサービスの利用に係る基本方針」にて定義されています。

※2021年3月30日の改訂版はこちら
参考:政府情報システムにおけるクラウドサービスの利用に係る基本方針

同基本方針は、「デジタル・ガバメント推進標準ガイドライン」の附属文書という位置付けとなっており、「政府情報システムのシステム方式について、コスト削減や柔軟なリソースの増減等の観点から、クラウドサービスの採用をデフォルト(第一候補)とし、府省CIO補佐官の関与の下、事実に基づく客観的な比較を行いその利用を判断するための考え方等を示す」ものとされています。

ちなみに、このほかの附属文書としては、以下の3文書が挙げられます。

Webサイト等の整備及び廃止に係るドメイン管理ガイドライン
行政手続におけるオンラインによる本人確認の手法に関するガイドライン
Webサイト等による行政情報の提供・利用促進に関するガイドライン
参考:政府CIOポータル「標準ガイドライン群」

クラウド・バイ・デフォルト原則策定の背景

クラウド・バイ・デフォルト原則が策定された背景には、民間領域におけるクラウド活用が進む中で、政府関連システムでは未だに及び腰であったことがあげられます。

クラウドサービスは、コンピューターリソースの最適化によるコスト削減はもとより、システムの迅速な立ち上げや冗長化等によるBCP対応、さらには物理的な場所を問わずに働く環境を提供できるなど、利用することでさまざまなメリットを享受できます(詳細は後述)。

一方で当時の政府システムにおいては、セキュリティへの不安やオンプレミス環境からの移行リスクを鑑みて、なかなか積極的に活用できていませんでした。

労働力人口の減少をはじめ、あらゆる社会課題が噴出する中、政府関連業務の運用も効率化の必要性が高まり、民間における“クラウドファースト”の姿勢をより一歩前に進める形で実装した思想が、クラウド・バイ・デフォルト原則ということになります。

クラウド・バイ・デフォルト原則策定の経緯

クラウド・バイ・デフォルト原則が政府内文章にて最初に定義されたのは、2017年5月30日に閣議決定された「世界最先端IT国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」と、同日に高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部・官民データ活用推進戦略会議で決定された「デジタル・ガバメント推進方針」です。

前者は、全ての国民がデジタル技術とデータ利活用の恩恵を享受し、安全・安心な暮らしや豊かさを実感できるデジタル社会の実現に向けた、政府全体のデジタル政策を取りまとめたものとして策定されました。また後者は、これを踏まえて今後電子行政が目指すべき方向性を定めたものです。

その後、2018年1月16日にeガバメント閣僚会議で決定された「デジタル・ガバメント実行計画」において、政府情報システムにおけるクラウド・バイ・デフォルトの基本的な考え方が示されることになります。

その上で同年6月には、先述した基本方針が提示され、クラウド・バイ・デフォルト原則の考え方が具体的に提示されることとなりました。

基本的には政府内の方針だが民間が参考にすべきこと

基本方針にも示されているとおり、クラウド・バイ・デフォルト原則の適用対象は、標準ガイドラインが適用されるサービス・業務改革、そしてこれらに伴う政府情報システムの整備・管理に関する事項とされています。つまり、基本的には政府関連システムの開発・運用を前提に記載されたものです。

しかし、ここで提示されている内容は、民間企業が参考にすべきものも多く含まれています。特に後述するクラウド利用の検討ステップは、システム基盤の選定においては官民共通して活用できるため、ぜひ「自社での活用」をイメージしながら確認いただきたい内容です。

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クラウドを活用するメリット

クラウドを活用するメリット

 

クラウドサービスの活用には、さまざまなメリットがあります。テレワークの実現に向け、多くの企業でクラウドの導入が進みました。一方「なんとなく」各種サービスを導入している企業では、クラウドの恩恵を最大化できていない恐れがあります。

改めて、クラウド活用による5つのメリットを確認しましょう。

可用性の向上

クラウドを活用すると、システムの可用性が向上します。「可用性(Availability)」とは、システムが継続して稼働できる能力のことを指します。

たとえば企業の基幹システムや物流を制御するサプライチェーンマネジメントシステム、金融機関の勘定系システムなどの場合、10分のシステムダウンが大きな損害につながるため、企業は可用性を担保するために莫大な費用を投じていました。

クラウドサービスを活用することで、過剰な投資を抑えつつ、可用性を担保することができ、BCP対策等にも有用です。

 

利用・導入に向けた柔軟性

クラウドサービスの導入によって、ITリソースの利用・導入における柔軟性の向上も期待できます。

オンプレミス環境などで何か新しいITソリューションを稼働させようとした場合、あらかじめ最大稼働のケースを想定しサーバーの見積もりを立てることになります。よって、稼働後にコンピューターリソースの大半を使わないケースがほとんどだったり、逆に想定外のリソースが必要になると追加のコンピューターリソースを検討する必要があったりするなど、手間とコストのかかるオペレーションが前提となります。

一方でクラウドサービスの場合は、必要なコンピューターリソースを簡単に追加したり、逆に不要なものを削除したりできるため、より柔軟にIT資産を運用できます。

 

セキュリティの最適化

多くのクラウドサービスでは、一定のセキュリティ水準が担保されており、その強度についても複数のプランごとに設定されています。つまり、サービスやプランを選択することで、自社に最適なセキュリティレベルを“柔軟に”選択することが可能と言えます。

 

ビジネス環境への適応力向上

クラウドサービスでは、常に最新のテクノロジーを吸収して機能を実装しています。ユーザーが新しくIT投資等を行わなくとも多様な最新機能を活用できる拡張性を持つため、機能を毎回自前で追加する必要のあるオンプレミスと比較すると、日々変化するビジネス環境への適応力が向上すると考えられます。

 

生産性向上

クラウドサービスを活用することで、場所を問わずに多くのITリソースを活用・共有できるため、従業員の生産性向上に寄与します。たとえばリモートワークの実現は、クラウドサービスの活用なしでは難しいでしょう。

クラウド・バイ・デフォルト原則によるクラウド利用の検討プロセス

クラウド・バイ・デフォルト原則によるクラウド利用の検討プロセス

 

先述した「政府情報システムにおけるクラウドサービスの利用に係る基本方針」では、クラウド・バイ・デフォルト原則に基づく利用検討プロセスが以下のように示されています。詳細は同資料の7ページ目以降をご覧いただくとして、ここではその概要をご紹介します。

クラウド・バイ・デフォルト原則に基づく利用検討プロセス


画像出典:CIO連絡会議決定政府情報システムにおけるクラウドサービスの利用に係る基本方針7ページ

ステップ①:検討準備

クラウドサービスの利用検討に先立ち、まずは業務の基本属性や必要なサービスレベル、業務量、取り扱うことになる情報内容等について、可能な限り明確にします。

 

ステップ②:SaaSの利用検討

ステップ①の検討準備の結果を踏まえて、まずはパブリッククラウドで提供されるSaaSサービスの導入・利用を検討しましょう。SaaS(Software as a Service)とは、オンライン経由で提供されるさまざまなITサービスのことを指します。また、パブリッククラウドとは、対象を問わず幅広いユーザーに対してクラウドコンピューティング環境を提供する「オープンなクラウド形態」を指します。

パブリッククラウドで提供されるSaaSサービスの導入・利用が難しい場合は、今度はプライベートクラウドで提供されるSaaSサービスの導入・利用を検討しましょう。プライベートクラウドとは、企業等が「自社専用のクラウド環境」として構築する「オープンなクラウド形態」を指します。

 

ステップ③:IaaS/PaaSの利用検討

ステップ②でSaaSの利用が難しいと判断された場合、今度はIaaSとPaaSの利用を検討します。IaaS(Infrastructure as a Service)とは、システムの稼働に必要なインフラ層の機能をクラウドで提供することを指します。またPaaS(Platform as a Service)とは、アプリケーションなどのソフトウェアを使うために必要なOS等のプラットフォーム一式をクラウドで提供することを指します。

ここでも、まずはパブリッククラウドによるIaaSやPaaSを検討し、難しいと判断された場合、続いてプライベートクラウドによるものを検討しましょう。

 

オンプレミスの利用検討

ステップ③までの工程を経て、どうしてもクラウドサービスの利用が難しいと判断された場合に、初めてオンプレミスでの構築を検討します。基本的にはクラウドでの構築を前提に、自社にあったスタイルを確立しましょう。

民間企業がクラウドを導入する際に気をつけるべきポイント

最後に、民間企業としてクラウド利用の際に気をつけるべきポイントをお伝えします。

まず、クラウドサービスプロバイダをしっかりと調べ、信頼できる事業者を選定することが大切です。どのプロバイダでもセキュリティ対策等を行っていることが前提となりますが、トラブル時の対応や日々の監視状況などの実施状況は会社によって異なることから、自社の要件に沿って細かくチェックするようにしましょう。

また、クラウドサービスを導入して終わりではありません。適切に運用がなされるよう、ルールを整備し、自社の従業員に展開することが大切です。特にセキュリティ意識の向上はオンプレミスサービスの利用以上に必須となりますので、研修やeラーニング等を活用して定期的に啓発のための教育機会を提供することが大切です。

クラウド選定の際は、固定観念で判断しないこと

ここまでお伝えしたとおり、クラウド・バイ・デフォルト原則は主に政府システムに対して提言されている内容ですが、そのプロセスやポイントについては、民間企業でも参考となるものとなっています。

大事なことは、「クラウドが絶対に良い」「オンプレミスでないといけない」など固定観念で判断しないことです。クラウドサービスを活用する際は、本記事でお伝えしたポイントを参考に、自社に最適なソリューションを選定しましょう。
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